「問題はその後の事なのです

「問題はその後の事なのです。まず私はお金という物を今全く持っておりません。しかも、ゲッソリナから外へは一歩も出た事がないので、どうやってタゴロロームへ行こうかと。」

「お金持ってないのお。」「お金持ってないのお。」「この城で暮らす上は必要が有りませんしね。下の者に命じて用意させる事はできますが、今の状況だと直ぐに疑われてしまいますわ。」植髮香港「金なら大丈夫だよお。ラシャレー宰相から金貨九枚もらったし。」「ラシャレーから・・・・・・金貨九枚ですの?」「そうなんだよお。何故か九枚なんだよお。」「私に遠慮したのでしょうか?・・・・・・まさかね。しかし、私に『金貨十枚も』と散々嫌味を言って置きながら、自分もそんな真似をするとは狡い男ですわ。」「いや、きっとオイラの届けた書面が重要な物だったんだよお。」「あら、私とした事が。・・・・・・きっとラシャレーもロキさんの人柄が気に入ったのでしょう。」エレナはそう言うと再びロキの耳元に顔を寄せ、「では、ロキさんにタゴロロームへの道案内を頼めますか?」と囁いた。「止めても無駄だよねえ。ハンベエの性格から考えて、もう向こうじゃあ、きっと血で血を洗うような話になってるんじゃないかと思うんだけどお、オイラ、一も二もなく王女様の味方だから、引き受けるよお。」ロキが仕方ないやという具合に肩を竦めて言うと、エレナは少しくすぐったそうな微笑みを浮かべて呟いた。「ありがとう。」この後、エレナとロキは更に声を潜めて密談を続けた。密談が終わってからは、エレナは気分が優れないと言って、部屋に閉じこもり誰も近づかないよう指示した。そして、食事等の時以外は人前に姿を現さない。しかも、人前に姿を現す時は何故かベールで顔を隠しているのである。王女に仕える者は奇妙に思ったが、理由を尋ねるのを憚った。そうして二日が過ぎた。 三日目の朝、いつもエレナの護衛をしている二人の武官が『王女の姿が見えない』と騒ぎ出した。この二人、物語の最初の方、ハンベエとロキが初めて王宮に乗り込んで来た時とハンベエ達がタゴロロームに旅立つ時に登場していたが、名前は出ていなかった。何時までも名無しの権兵衛というのも気の毒であるから、そろそろ紹介しよう。 名はスパルスとザーニックという。がっしりとした体格で、タゴロロームにいる(この時点ではまだいるよ)ドルバスの巨躯には及ばないが、大柄な筋肉モリモリタイプである。この二人は常日頃から、王女エレナの護衛として側についていたのだが、ここ二日はエレナの指示で身辺から離れさせられており、エレナ自身部屋に籠もりっぱなしだった。遂に不審を抱いたスパルスとザーニックが侍女に強要して、エレナの私室を開けさせたのである。王女行方不明の情報が流れると、直ぐにラシャレーが客室に滞在しているロキのところにやって来た。一応のノックをしてラシャレーが入って来ると、ロキは椅子に腰掛けて丸テーブルに手をついていた。まるで、ラシャレーがやって来るのを見通していたかのようだ。「ロキ、ざっくばらんに尋ねる。その方、エレナ姫の失踪に関与しているのではないのか?」ラシャレーは単刀直入に質問した。立ったままである。ロキは椅子から立ち上がると、静かに一礼して言った。「関与してるよお。オイラ、王女様に路銀渡した。王女様はタゴロロームに向かったよお。」「呆れた奴じゃな。姫が今からタゴロロームに行けば、危険にさらされるとは思わんのか。」「危険だと思うよお。だけど、危ないからやめろとばかり言うのもどうかなあ、王女様は赤子じゃないからね。」「口の達者な奴だ。姫は今何処におるのだ。」「さあ、この城を出たのが三日前だから、馬を飛ばせば、タゴロローム近くまで行き着いてるかもだよお。」「三日前だと。しかし、姫は昨日まで・・・・・・。」「あれは替玉だよお。ところで、オイラはどうなるのかな?王女様の失踪がバレた以上王宮に留まってても仕方ないしね。牢屋に入れられるんだろうか?」

モルフィネスという男

モルフィネスという男、今まで人から叱られた事などほとんど無く、バンケルクの言いざまに内心大いに不満を感じていた。しかし、この男は自分より身分の上の人間に逆らう事が、どれほど損になるか良く知っているようで、努めて殊勝な顔付きをして、バンケルクの悪罵に耐えていた。「全て私の浅はかな判断ミスでした。まことにお詫びの次第もありません。」モルフィネスは憤りを胸にしまって、浅はかさではあんたの方が上なんだがねと心で嘲りながら、詫びを言った。「ふむ。・・・まあ、公司秘書れまでの功績に免じて、これ以上は言うまい。で、この後はどうするつもりだ。」「どうする・・・とは?」「ハンベエの始末だ。まさか、あのような男をこのままにしておくわけには行くまいが。」バンケルクはハンベエという名を出すのも腹立たしいと言わんばかりである。「今のところ、ハンベエを葬る妙案は思いつきません。ハンベエを倒せる者を探してはいますが。」「何を悠長な事を、他の連隊を動かして第5連隊ごと押し潰してしまえば良いだけであろうが。」「それはお勧め出来ませんね。もし、大規模な攻撃を掛ければ、第5連隊は駐屯地中に火を放つ準備をしているようです。」「火を・・・駐屯地を火の海にするつもりなのか?」「火矢の準備をした部隊を交替で配置しているようですね。直ぐにでも駐屯地に火を掛けれるように。」「おのれ・・・そのような卑劣な手を。どこまでも不埒極まりない蛆虫が・・・」バンケルクは、自分が第5連隊になした事など棚上げにして、歯軋りした。モルフィネスは、一貫してあらわにされているバンケルクのハンベエに対する憎悪の感情を些か奇異に感じた。とは言っても、その違和感を深く考えてはみなかった。モルフィネスこそ、今回、ハンベエに厭というほどの煮え湯を飲まされ、おまけに赤っ恥まで掻かされた身の上、ハンベエへの憎悪はバンケルクに尚勝っていた。だがしかし、腹中に深く憎悪を宿しながらも、モルフィネスは冷徹な無表情を装っていた。冷徹で計算力に富んだ策謀家というのが、身上らしい。痩せ我慢のポーズにも見えるが、整った容姿で誤魔化していた。「今、何よりも重要な事はゲッソリナの行政府にこのタゴロロームに口出しするきっかけを与えない事でしょう。私とハンベエの一件については、箝口令を布きましょう。押さえつければ、ただの風説として話は萎むでしょう。」「そう上手く行くか? 何と言っても、第5連隊の死に損い以外にハンベエを英雄扱いする奴が出て来てはまずい。早く、ハンベエを始末する事が重要だぞ。あの虫酸の走る男をこれ以上増長させてはならん。」 はてさて、ハンベエも随分嫌われたものである。バンケルクの憎悪は一体何に由来するものであるのやら。参謀としてしてバンケルクに仕えているモルフィネスは、冷徹な己を持する事に努めながら、司令官の感情的な物言いに辟易する思いだった。(私なら、最初からハンベエをこちら側に取り込んでいたがなあ。仮に始末するにしてもその方が楽だったろうし・・・今となってはどうしようもないが。)モルフィネスは胸の内で吐き捨てた。ゴンザロから、モルフィネスとの一件が守備軍中に広まったという報告を受けたハンベエは、連隊長用の石の住居から外に出て『ヨシミツ』を抜いた。アルハインド族との戦いが始まってから、剣術の鍛練が途切れていたハンベエであった。久しぶりに素振りを行おうというのである。他の兵士がいない場所までわざわざ出向いた上で、鍛練を始めようとしていた。一人きりになりたかったようでもある。随分強くなったと己自身を思った。鍛練の度に強くなった、強くなったと自画自賛している事が多いとは幸せな男である。(いかんいかん、自惚れてはいかん。まだまだ修行中の身、師に叱られる。・・・だが、ちょっとは自惚れてもいいかな?)などと考えながら、剣を正眼に構えた。

ついさっきまで

ついさっきまで、第5連隊敗残兵の屠殺場となっていた戦場は、今や敵も味方も飲み込んだ、阿鼻叫喚の地獄と変わった。ハンベエ達は岩山の尾根近くまで登っていたが、要塞前で繰り広げられた、この地獄絵図を見ていた。赤々と燃え上がる草原、逃げ惑って倒れて行く人馬。「やはり、これをやったか。しかし、逃走路を塞ぐために岩が落とされたといYaz避孕藥 評論尾根伝いに、要塞に通じる道があったようだな。」ハンベエは努めて冷静な口調で言った。口調は冷静を装っているが、怒りを内に包み込んだ不機嫌極まりない表情である。ドルバス、ヘルデン、ゴンザロ、ボルミス、そしてパーレルは、ただ呆然と要塞前の地獄を見ていた。声も無くしたかのようである。

ハンベエ達は遠くからであるが、一部始終を見ていた。つまり、要塞の城門まで辿り着いた第5連隊兵士達が、要塞に入る事も許されず、アルハインド勢に圧殺されて行く光景から、連隊兵士など全くお構い無しに、ただアルハインド勢をより効率的に殺すためだけに機能した、要塞の冷酷とも言える動きまで、全て見てしまったのである。ハンベエはただ冷ややかで、不機嫌なツラをして見ているだけであるが、他の者は激しい驚愕と、言いようのない虚しさに包まれた表情を浮かべ、魅入られたように、炎の草原を見つめ、立ち尽くしている。ハンベエから事前調査を命ぜられ、ある程度の予想ができたであろうはずのヘルデンすら、信じがたいものを見るかのような表情をしている。「俺達は・・・敵を誘き寄せるためだけの餌だったのか。・・・」怒りに身を振るわせながら、ドルバスが言った。この大男は、全身から凄まじい殺気を放っていた。それは、空気に波動を起こし、周りの岩にヒビが入るのではないかと思えるほどのものであった。「ハンベエ、お前、この事を知っていたのか。」ドルバスはハンベエに尋ねた。咎めるような口調だ。「タゴゴダの丘から要塞迄の地形を見れば、大抵の奴は思い付く策だ。しかし、城門を閉ざして、最後まで第5連隊兵士を餌として使いきるというところまでは半信半疑だったがな。」「連隊兵士達がこうも無惨に死ぬのが分かっていて・・・、ハンベエは平気なのか?」ドルバスはやり場のない怒りをハンベエにぶつけるように言った。ハンベエはドルバスを振り返って、その目を見つめた。ハンベエの表情に目立った感情は現れていないが、その瞳は深い悲しみを宿し、恐ろしいまでに澄み切っていた。ドルバスは怒りの矛先をハンベエにぶつけたのは、多少理不尽だったかと若干たじろいだように見えた。「疑いはあったが、確証は無かった。だから、ただ、最悪の想定の下に行動を決めた。だが仮に、全ての事を完全に把握していたとして、俺達に連隊兵士を救う手立ては無かったろうよ。」「・・・タゴロローム守備軍本部にこんな策を施す道理があるのじゃろうか?・・・最初から第5連隊をタゴロローム要塞に入れて一緒に守ればいいじゃろうが。そうすべきじゃろうが。」「必要はあったのさ。敵の総数はどう見ても、5万近い。普通に守っても、じわじわと攻められたら、勝ち目はない。敵に大打撃を与え、戦意を削ぐ必要がある。まず、タゴゴダの丘だが、最初に敵がここに陣地を作って腰を据えてしまったら、要塞の威力はかなり減少する。だから、タゴゴダの丘に兵士を配置した。そして、陣地を打ち破った敵は勢いに引きずられて逃げる味方を追撃して来るものと予測した。