ついさっきまで

ついさっきまで、第5連隊敗残兵の屠殺場となっていた戦場は、今や敵も味方も飲み込んだ、阿鼻叫喚の地獄と変わった。ハンベエ達は岩山の尾根近くまで登っていたが、要塞前で繰り広げられた、この地獄絵図を見ていた。赤々と燃え上がる草原、逃げ惑って倒れて行く人馬。「やはり、これをやったか。しかし、逃走路を塞ぐために岩が落とされたといYaz避孕藥 評論尾根伝いに、要塞に通じる道があったようだな。」ハンベエは努めて冷静な口調で言った。口調は冷静を装っているが、怒りを内に包み込んだ不機嫌極まりない表情である。ドルバス、ヘルデン、ゴンザロ、ボルミス、そしてパーレルは、ただ呆然と要塞前の地獄を見ていた。声も無くしたかのようである。

ハンベエ達は遠くからであるが、一部始終を見ていた。つまり、要塞の城門まで辿り着いた第5連隊兵士達が、要塞に入る事も許されず、アルハインド勢に圧殺されて行く光景から、連隊兵士など全くお構い無しに、ただアルハインド勢をより効率的に殺すためだけに機能した、要塞の冷酷とも言える動きまで、全て見てしまったのである。ハンベエはただ冷ややかで、不機嫌なツラをして見ているだけであるが、他の者は激しい驚愕と、言いようのない虚しさに包まれた表情を浮かべ、魅入られたように、炎の草原を見つめ、立ち尽くしている。ハンベエから事前調査を命ぜられ、ある程度の予想ができたであろうはずのヘルデンすら、信じがたいものを見るかのような表情をしている。「俺達は・・・敵を誘き寄せるためだけの餌だったのか。・・・」怒りに身を振るわせながら、ドルバスが言った。この大男は、全身から凄まじい殺気を放っていた。それは、空気に波動を起こし、周りの岩にヒビが入るのではないかと思えるほどのものであった。「ハンベエ、お前、この事を知っていたのか。」ドルバスはハンベエに尋ねた。咎めるような口調だ。「タゴゴダの丘から要塞迄の地形を見れば、大抵の奴は思い付く策だ。しかし、城門を閉ざして、最後まで第5連隊兵士を餌として使いきるというところまでは半信半疑だったがな。」「連隊兵士達がこうも無惨に死ぬのが分かっていて・・・、ハンベエは平気なのか?」ドルバスはやり場のない怒りをハンベエにぶつけるように言った。ハンベエはドルバスを振り返って、その目を見つめた。ハンベエの表情に目立った感情は現れていないが、その瞳は深い悲しみを宿し、恐ろしいまでに澄み切っていた。ドルバスは怒りの矛先をハンベエにぶつけたのは、多少理不尽だったかと若干たじろいだように見えた。「疑いはあったが、確証は無かった。だから、ただ、最悪の想定の下に行動を決めた。だが仮に、全ての事を完全に把握していたとして、俺達に連隊兵士を救う手立ては無かったろうよ。」「・・・タゴロローム守備軍本部にこんな策を施す道理があるのじゃろうか?・・・最初から第5連隊をタゴロローム要塞に入れて一緒に守ればいいじゃろうが。そうすべきじゃろうが。」「必要はあったのさ。敵の総数はどう見ても、5万近い。普通に守っても、じわじわと攻められたら、勝ち目はない。敵に大打撃を与え、戦意を削ぐ必要がある。まず、タゴゴダの丘だが、最初に敵がここに陣地を作って腰を据えてしまったら、要塞の威力はかなり減少する。だから、タゴゴダの丘に兵士を配置した。そして、陣地を打ち破った敵は勢いに引きずられて逃げる味方を追撃して来るものと予測した。

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