他人の私が聞いても不快な気持ちになったくらいだ

他人の私が聞いても不快な気持ちになったくらいだ。本人なら、尚更嫌な気持ちになったに違いない。「あんなに恨まれると、逆に清々しいよ。まぁ、嫌われても仕方ないけど」「……あの子に恨まれるようなこと、したの?」「彼女のプライドをへし折るようなことを言っただけだよ。興味がない子には、興味がないってハッキリ言わないと失礼だしね」久我さんなら、冷酷な言葉を難なく浴びせることが出来そうだ。「そんなことより、僕は嬉しかったな」「何が?」「君が、僕を庇ってくれたから」そう言われ、急に恥ずかしくなり私は顔を手で隠した。私の発言も、全て聞かれていたということだ。股票佣金、庇ったわけじゃないの。ただ、聞いててムカついたから言い返しただけ」「君のそういう所、好きだよ」「……からかわないで」余計に、顔が赤くなる。さっき久我さんの顔を見た瞬間、もの凄くホッとした。心が自然と安らいでいくのを感じた。あぁ、私、この人に恋をしているんだ。ギリギリまで認めたくなかったけれど、そう確信してしまったのだ。「とりあえず、早く店に行きましょ」「いや、あと五分後に行こう」「どうして?」「君のその表情、近藤には見せたくないから」「……」「ちょっと仕事の電話してくるから、待ってて」久我さんはふっと笑い、私の頭に軽く触れた後、少し離れた所で仕事の電話をし始めた。そんな彼の一挙一動を、私は目で追いかける。仕事の話をしているときの、真剣な表情。私をからかうときの、意地悪な笑顔。私の髪に触れる、長くて綺麗な指。整えられた爪、長い睫毛、首にあるほくろ。細かな部分まで、観察したくなってしまう。好きな人のことは、何でも知りたくなる。そんな独占欲が強い私が、本当に彼を好きになってもいいのだろうか。「どうかした?」電話を終え戻ってきた久我さんは、少し心配そうな表情を浮かべていた。「え、あ……ううん、何でもない。もう落ち着いたから、行こ」赤くなった顔は、多分普通の状態に戻ったと思う。でも心の中は、恋を自覚した瞬間からずっと騒がしい。近藤さんの店に来るのは、これで何度目だろう。扉を押し店内に入ると、いつもと同じカウンター席が空いていた。「いらっしゃいませ。久我、そこの席空けておいたよ」「ありがとう」「蘭ちゃんも、久し振り。いつも一人で来てくれるの期待してるんだけど、結局来てくれないよね」「蘭ちゃんって……」急に近藤さんから下の名前で呼ばれて驚いたけれど、客商売の彼はこうして他人との距離を縮めていくのだろう。普段から蘭ちゃんなんて呼ばれることは滅多にないけれど、そこまで違和感はなかった。「近藤、馴れ馴れしい」「あぁ、ごめん。でも、久我の方が堅いんじゃない?桜崎さん、より、蘭ちゃんの方が呼びやすいだろ」営業スマイルで喋る近藤さんを久我さんが睨みつけると、その話は終わり近藤さんはカクテルを作るために私たちから離れた。二人の間に流れる沈黙の時間。何か話しかけようと思いながらも、どことなく不機嫌な久我さんに何を話せばいいのか迷った。すると、彼の方から口を開いた。「やっぱり、店変えようか」「え……私は変えなくていいけど。近藤さんが作るカクテル、美味しいし」「……そう」久我さんはギムレット、私はマティーニを注文した。この日は前回よりも客が入っていて、店内はほぼ満席の状態だった。それでも、騒がしい客は一人もいないため、優雅な時間を過ごすことが出来そうで安堵した。「さっきの話だけど、君は苗字で呼ばれるのと下の名前で呼ばれるの、どっちがいい?」「え?」

Leave a Reply

Your email address will not be published. Required fields are marked *